予測から「次の一手」へ
説明責任が求められる社会インフラのための因果AIとは
― 限られたリソースで持続可能なインフラ管理を ―

社会インフラを支える人材が減少する一方で、老朽化した設備は増え続けています。すべてを同じ頻度で調査・補修することが難しい今、必要なのは、リスクの高い場所を見極め、限られた資源を効果の高い施策へ振り向ける意思決定です。一方で、既存のAIはパターンにないものは予測できず、結果へ至る処理の過程がブラックボックスで、公共の費用を用いて対策を打つ根拠として使用することは難しい実態がありました。ここに解決策をもたらすのが、劣化や故障につながる因果関係に基づいた意思決定を可能にするコーザルAI(因果AI)「xCausal®(クロス・コーザル)」です。

■ 社会インフラが直面する課題

現在日本では、生産年齢人口の減少による技術者不足が進む中、下水道をはじめとする社会インフラでは耐用年数を超える施設が増加しており、人材は減る一方で対象は増えるという構造になりつつあります。さらに、施設の更新や維持管理には多額の費用がかかります。人口減少による料金・税収の伸び悩み、物価や資材・人件費の上昇も重なり、必要な対策をすべて同時に行うことはできません。だからこそ、「どこから調査するか」「どこを補修するか」「どの対策を選ぶか」を、根拠に基づいて判断する必要があります。

■ 従来型のインフラAIによる「予測」では解決はできない

相関関係に基づいた従来型のAIは、過去データの相関やパターンを学習し、「この設備が劣化する可能性が高い」ことを予測します。しかし、過去のパターンにない予測は不得手であり、環境や人の活動の違いが多岐にわたるような社会インフラに対して、どの設備に補修が必要かを予測するには向いていません。また、予測ができたとしてもなぜその結果が算出されたのかがわからない、ブラックボックスであるという弱点があります。社会インフラには主に公費が使われるため、現場の意思決定には予測結果だけでなく、以下のような要素が必要です。

「なぜ、この設備のリスクが高いのか」

「どの要因を変えれば、リスクを下げられるのか」

「複数の対策のうち、どれを優先すべきか」

「対策によって、結果がどの程度変わるのか」

一般的なAIとコーザルAI(因果AI)の違い

■ xCausal®なら、原因と結果から次の一手を導ける

xCausal®は、劣化や不具合の予測結果を示すだけでなく、「なぜその結果に至るのか」「どの対策で、どれだけリスクを減らせるのか」を分析し、施策を選ぶための判断材料を提供します。

現場の専門知識とデータを組み合わせ、設備の状態、環境条件、運用、劣化、過去の維持管理や対策の関係を因果モデルとして整理します。原因と結果のつながりを明らかにしながら、モデルの前提とデータに基づき、次のような分析・意思決定を支援します。

リスク要因の把握:リスクを高めている要因と、その影響経路を可視化する

対策の有効性の評価:対策を実施する場合と実施しない場合の結果を比較し、期待されるリスク低減効果を推定する

条件に応じた施策の比較:設備や地点の条件によって、どの対策がどの程度効果を発揮するかを推定する

調査・補修の優先順位の検討:期待効果に加え、コストや現場の制約を踏まえて、優先すべき対象と対策を検討する

「どこが危ないか」という予測を、「どこに、何をすべきか」という判断へつなげます。xCausal®は、限られた予算と人員の中で、根拠に基づく効果的な維持管理を支援します。

■ 予測するAIから、意思決定を支えるAIへ

xCausal®の技術基盤の一つが、構造的因果モデル(SCM)です。変数間の因果構造を明示し、相関分析だけでは扱いにくい「介入」や「反事実」を推論します。これにより、「もし清掃したら」「もし補修方法を変えたら」といったWhat-if分析が可能になります。

■ 複雑な腐食メカニズムを捉え、調査・補修の優先順位を明らかに

生活排水や産業排水が流れる下水道では、水質や化学成分が常に変化します。腐食に関わる硫化水素の発生も、管きょ内の滞留、流速、気温、勾配、上流の排水特性などによって大きく変動するため、単純な経年劣化モデルでは捉えにくい現象です。

■ 腐食メカニズムを因果モデル化

xCausal®では、管きょの構造、上流の排水特性、地形、気象、流況、環境条件、維持管理履歴などを因果モデル化します。これにより、管きょごとの劣化リスクだけでなく、そのリスクを生む要因と影響経路を把握できます。

下水道は劣化予測が難しい 腐食から陥没に至るメカニズム

■ 有効な対策と介入効果を推定

清掃・補修・更生工法など、どの対策がどの地点で有効かを見極めます。

同じ劣化リスクでも、原因が異なれば有効な対策も異なります。xCausal®は、対策を行った場合と行わなかった場合を比較し、管きょごとの介入効果を推定します。

・優先的に調査すべき管きょを絞り込む

・清掃・補修・更生などの施策候補を比較する

・期待効果とコストを踏まえて実施順序を検討する

■ 限られた調査予算で、より多くの異常を見つける

過去に調査した管きょには、実際に損傷していたかどうかの結果が残っています。その結果を一時的に伏せ、過去データから構築した因果モデルで調査順位を付け、上位から何件の異常を発見できるかを確かめます。

たとえば「一昨年度までのデータでモデルを構築し、昨年度の調査結果を予測する」ことで、昨年度に導入していた場合の効果を再現できます。現行の選定方法と比較し、空振り調査の削減や異常発見率の向上を定量的に評価します。

PoCでは、過去データによる答え合わせから始め、継続的なデータ取得とモデル改善、対話型UIを備えた現場システムへ発展させます。

■ 分析するだけでなく現場で使えるAIへ

コーザルAIアシスタントが因果モデルと現場の対話をつなぎます。

コーザルAIアシスタントは、コーザルAI、生成AI、AIエージェントの長所を組み合わせたカスタムソリューションです。専門家の知識や判断ロジックを因果モデルとして蓄積し、質問に対して根拠とともに回答します。

「管きょAで優先すべき対策は?」

「補修した場合、リスクをどの程度下げられる?」

「今年度の予算なら、どこから調査すべき?」

地図情報や設備台帳、調査履歴と組み合わせることで、リスク、原因、推奨施策を直感的に確認できる仕組みを構築できます。データの更新や現場の判断を取り込みながらモデルを改善し、属人的だった知見を組織の資産として継承します。

インテリジェントな対話型AIへ コーザルAIアシスタント

■ 限られた予算をより効果の高い調査・対策へ

xCausal®を使えば理由がわかるため、優先順位と予算配分を説明できます。

理由がわかるからできる財政健全化への寄与

⚫︎   調査コストの削減

損傷可能性と判断根拠に基づいて調査対象を絞り込み、空振り調査を減らします。

⚫︎   更新投資の最適化

設備ごとのリスクと施策効果を比較し、限られた予算を効果の高い対策へ配分します。

⚫︎   予防保全による事故対応コストの抑制

劣化要因を早期に把握し、適切なタイミングで介入することで、設備の延命と重大事故リスクの低減を支援します。

■ 経験だけに頼る判断から根拠を共有できる意思決定へ

下水道をはじめ様々なインフラに適用可能です。因果メカニズムを利用するというヴェルトの考え方は、下水道に限らず、道路、橋梁、上水道、電力、鉄道、公共施設、防災などにも展開できます。設備・環境・運用・人の判断が複雑に関係する領域で、原因の理解、施策効果の推定、優先順位付けを支援します。